両親が認知症になったらどうする?~高齢社会の不動産取引問題~

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両親が認知症になったらどうする?~高齢社会の不動産取引問題~

厚生労働省は,2015年1月,団塊の世代が75歳以上になる2025年に,認知症の人が約700万人に達するとの推計を明らかにした。これは,65歳以上の高齢者の5人に1人に当たる。

平均寿命が伸びたことで高齢者が不動産を売買するケースも増えているが,認知症により判断能力が不十分になった場合等には,いろいろな問題が生じているようだ。

 

これらを、順を追って検討してみよう。

1 ) 契約

まずは、「契約」という概念について。契約が成立するためには,契約の「当事者」が,その「意思」に基づいて契約を行うことが必要で、契約の「当事者」でない,または「意思」がない場合,契約は成立しない。

例えば、不動産の所有者が認知症になった場合,家族の方が売買契約をできないかとの相談を受けることがあるが,契約は原則として「当事者」である本人でなければできないこととされている。では,売買代金などの決定は家族が行い,形式的に本人が契約書にサインすればいいかと言えば,これもできないことになっている。「意思」能力がない場合にはそもそも契約が成立しないからだ。

このような場合には,判断能力が不十分な方をサポートするため,本人に代わって契約などを行うことのできる「成年後見」という制度が利用できる。

成年後見制度には,元気なうちに万が一の場合に備えておく「任意後見制度」と,時後的に利用する「法定後見制度」があるが,今回はその中で,「法定後見制度」について詳しくお伝えしたい。

 

2) 成年後見制度

一般に,判断能力が不十分といっても,高齢者が,ある日突然全ての判断能力が無くなることはまれだ。したがって,本人をサポートすることが必要な範囲で,家族などの申し立てにより,成年後見人,保佐人,補助人を家庭裁判所が選任することになっている。

  1.  成年後見人

本人がひとりで契約を判断することがほとんど困難な場合で,成年後見制度の中では,もっとも厚い保護を必要とする方を指します。日用品を買ったりする少額な買い物は本人が行うことができるが、ほとんどの契約を成年後見人が,代理人として契約行為を行わなければならない。

  1.  保佐人

本人だけでは契約内容を判断することが難しい方に,内容を確かめるサポートをするのが保佐人だ。当事者本人の契約を有効にするためには,保佐人の同意を得なければならず,同意を得ないでした契約は,取り消すことができる。また,裁判所が必要と認めることについては,本人を代理して契約をすることも可能。

  1.  補助人

日常生活は支障なくこなせるが,特定のことは判断が難しい方をサポートするのが補助人だ。本人の行為のうち、補助人の同意,代理が必要な事項は裁判所が決定する。

 

3 )どの手続をとるか

上記①~③のいずれかのサポートが適しているか,具体的に誰を選任するかは,最終的に家庭裁判所が判断ることになっている。

注意して欲しいのは,成年後見人等が選任されたからといって,必ずしも不動産の処分ができるとは限らないという点だ。成年後見人等は,あくまで「本人のため」に財産管理を行うので,例えば,本人名義の不動産を売却して子供や孫の教育費に充てることなどはできない。また,財産の維持管理が目的なので,本人名義の土地のうえにアパートを建てて資産の運用を行ったりすることも,原則できない。さらに,相続税対策についても,相続税を支払うのはあくまで相続人であり,本人ではないので,節税対策も難しくなることもある。

このように,認知症になってしまった後では,資産管理に大きな影響が出てくるので,元気なうちに早め早めの対策をとることが肝要なのだ。