支店と本店。転勤者が賃貸住宅需要を支える?

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前回の「沖縄県における有効求人倍率の変化は、人口流入にどんな影響があるのか?」では、本土主要都市においては、人口動態における転入者が賃貸住宅需要を支えるが、沖縄においてはさほど影響はないということをお伝えした。

今回は、賃貸住宅需要を支える要因として、転勤者について考えたみたい。

転勤者の数がどれくらいかについては、公的な資料は存在しない。
ただ、社員300名以上の企業においては、60%以上の会社で転勤があるというデータ(厚生労働省)もある。

かつては、企業の規模拡大に支店支社を増やすことは不可欠であった。そして、それに伴い、社員も移動を余儀なくされた。
しかし、いまでは、高速移動手段の進化(飛行機・新幹線)やIT環境(通信環境)が年々進化しているため、こうしたあり方も変化しつつある。

その一方で、地域に密着した(根ざした)企業に対して親しみを抱く消費者が増えたことも影響して、EC化できないBtoC企業などは、支店支社を増やす傾向にある。

また、各地方自治体はこれまでも税の優遇などを掲げて、工業団地などを造成して企業誘致を図ってきたが、製造業誘致はままならず、今成功しているのは、活動エリアに縛られないIT系企業の企業誘致を積極的に行っているような地域だ。

沖縄県においても、コールセンターやIT系の企業などの誘致の実績がある。

言うまでもないが、住まいと仕事(職場)は密接なつながりがある。

単身赴任をする人の割合が減っていると聞く。

子供を抱える世帯では、通学の関係から、夫が単身赴任せざるを得ない場合もあるが、家族そろって転勤する思考が近年強まっているようだ。

図2は、人口30万人以上の都市における、本社と支店の数を表している。

図2

本社を置く事業所数ランキング

本社の数は、東京がダントツで大阪、名古屋と続く。

注目は、右端の「他の都道府県に本社を置く支社の数」だ。

東京には、他の都道府県に本社を置く企業が複数の視点を置くこともあるだろうが、30万人以上の都市にはかなりの支店支社が存在することがわかる。
こうして数字を見ると、まだまだ転勤者が多いことがうかがえる。

一方、沖縄県に支社・支店を構える企業はあまり増えていない。
かつて支店を構えていた企業も、沖縄の拠点を閉めて、九州(主に福岡)の支店が管轄する体制に変えている企業も増えているようだ。

県内において、これからも本土企業の支店支社が増えることはあまり考えられない。

そのため転勤者が賃貸住宅需要を下支えするということはないだろう。

しかし、県内発のベンチャー企業で、ずいぶん大きく成長している企業が増えてきた。

県内においては、大企業が産業をけん引するという体質から、10年前はまだ中小企業と呼べる企業が大きく成長して、それらの企業が本土に出向いて優秀な人材を確保する動きが、一般化してきた。

こうした本土からの就職者がふえれば、賃貸住宅需要に一役をかうことになるだろう 。

 

不動産エコノミスト 吉崎誠二

不動産エコノミスト 吉崎誠二