賃貸住宅 室内の破損。支払うのは入居者?オーナー?

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第3回目のコラムでは,「賃貸借契約期間中の諸問題」のうち,賃貸用建物の修繕,建替えについて説明します。

 

次回第4回目のコラムでは「賃貸借契約期間中の諸問題」の後半として,賃借権の譲渡・転貸,ペット・騒音・ゴミ問題についてご説明する予定です。合わせてお読みください。

 

 

建物の貸主,オーナー様にとって,賃貸している建物は大切な資産です。

建物が破損や汚損すると資産価値が損なわれるだけでなく,借り手がつかなくなる大きな問題になりかねません。また修繕には多大な費用がかかるかもしれません。

 

このような賃貸借契約中の建物の破損・汚損は賃借人の故意・過失によって生じたものかどうかによって,誰が修繕すべきか,費用は誰が負担すべきか,結論が異なります。

 

まず,賃借人の故意・過失で破損・汚損した場合,賃借人は賃借物件を善良な管理者としての注意をもって使用する義務(善管注意義務,民法400条)を負っていますので,賃借人の故意・過失で建物を破損・汚損したときは,賃借人が修繕義務を負います

 

これに対して,賃借人の故意・過失以外で,自然損耗や自然災害,第三者の行為などで破損・汚損した場合には,賃貸人は賃借人に対して,建物をその用法に従って使用収益させる義務があるので(民法616条・594条1項),賃貸人は賃借人が使用収益するのに必要な修繕をする義務を負います(民法616条1項)。

 

では,賃借人の故意・過失によらない破損・汚損であれば,賃貸人はいかなる破損・汚損についても修繕義務を負うのでしょうか。

 

まず,雨漏りや水道管の詰まりなど,住居として通常の使用に支障が生じる場合には,賃貸人は修繕義務を負います。もっとも,建物の躯体の破損でも,建物自体が老朽化しており,修繕するよりも建替えのほうが社会経済的に合理的といえる場合には,修繕義務を認めない裁判例もあります(最判昭和35年4月26日)。最判=最高裁判例

 

賃貸人として修繕義務を負うにもかかわらず,これに応じなかった場合に賃貸人にはどのようなリスクがあるでしょうか。修繕しないことで賃借人が建物の通常の使用ができなかった場合には,賃貸人の債務不履行として損害賠償責任を負います。

また,賃貸人が修繕しなかったため,賃借人自ら修繕した場合には,「必要費」(民法608条1項)として全額償還する義務を負います。

賃借人に修繕費用を負担させる旨の特約を結ぶことで,上記のリスクを予防することはできるでしょうか。一般的には,このような特約は,家主が修繕義務を免除する趣旨にすぎないと制限的に解釈されています。そのため,賃借人に修繕費用まで負担させることは特約ではできないと考えられます。

 

時間の経過に伴い,借地上の建物や賃貸借契約の目的物である建物が老朽化して,建替えが必要になったときはどのような問題が生じるでしょうか。

 

まず,借地上に借地人が建てた建物であれば建物所有権は借地人に帰属しますから,借地契約の条件の範囲内で借地人は自由に建物を増改築・建替えができるのが原則です。

もっとも,多くの借地契約では,建物増改築禁止特約が設けられています。この特約がある場合には,借地人が建物の増改築をするには地主の承諾が必要になります。地主としては,地代の増額を求めたり,承諾料を求めるのが一般的です。地主と借地人との協議がまとまらない場合には,借地人が裁判所に「増改築許可の申立」をします(借地借家法17条1項)。裁判所は,借地権の残存期間,土地の状況,借地に関する従前の経過その他一切の事情を考慮したうえで,地主の承諾に代わる許可(代諾許可)を与えることができます(同条2項・4項)。また,裁判所は許可の際に,地代の増額など借地条件の変更すること,承諾料としての財産上の給付を命じることなどその他相当の付随処分をすることができます(同条3項)。

 

では,建物賃貸借契約で,家主が建物の老朽化による立替を理由に賃貸借契約の更新拒絶を申し入れることはできるでしょうか。

 借地借家法では賃借人保護のため,契約期間の満了により契約の終了する,つまり賃貸人が更新を拒絶するためには,

・期間満了前1年前から6か月前までに更新拒絶の意思を表示する

ことに加えて,

・正当事由

が必要とされています(借地借家法26条1項,同28条)。

 

これらの規定は当事者間の合意でも排除できない強行規定ですので,期間満了で契約更新しないという特約は無効になるので注意が必要です。

ここでいう「正当事由」は,賃貸人または賃借人が建物を使用する必要性,賃貸借に関するこれまでの経過,建物の利用状況,建物の現況(損傷の有無,老朽化の程度),立退料の有無・金額によって個別に判断されます。

したがって,立退料さえ払えば賃借人を追い出せるわけではありませんし,立退きのためには必ず立退料が不可欠というわけでもありません。